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白夜行:日文版-第32章

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 奈美江は息を整え、乱れた髪を後ろに撫《な》でつけた。鼓動は依然として激しい。
 隣の部屋に置いてある例のテレビ画面が目に入った。『GAME OVER』の文字が表示されたままだ。
「どうして……」彼女は口を開いた。「ほかにいくらでもバイトはあると思うのに」
「俺は単に、売れるものを売ってるだけや」
「売れるもの……ね」奈美江は立ち上がり、歩きだした。歩きながら頭を振った。「あたしにはわからないな。やっぱり、もうおばさんね」
 テ芝毪吻挨蛲à赀^ぎ、玄関に向かおうとした時だった。
「おねえさん」彼が声をかけてきた。
 奈美江は靴を履こうと片足を浮かせていた。その姿勢のまま振り返った。
「面白い話がある。一口仱欷丐螭
「面白い話?」
「ああ」彼は頷いた。「売れるはずのものを売る話や」

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[#ここで字下げ終わり]

 夏休みが近づいていた。七月に入って第二週目の火曜日だった。
 名前を呼ばれて受け取った英語の答案用紙を見て、友彦は目をつぶりたくなった。覚悟はしていたが、これほどひどいとは思わなかった。この学期末試験はどの教科も散々だ。
 考えなくても原因ははっきりしている。試験勉強らしきものを全くしなかったからだ。彼はたまに万引きをする程度に不良の要素を持ってはいるが、試験前には一応勉強をするふつうの生徒だった。今回ほど何の準備もしなかったことは過去に一度もない。
 だが正確にいうと準備をしなかったわけではなかった。机に向かい、せめてヤマを張る程度の勉強はしようと思った。
 ところがそれすらもできないほど、心は別のことに捕らわれていた。どんなに勉強に集中しようと思っても、脳はそのことを彼に思い出させるばかりで、肝心なことを受け入れようとはしないのだった。
 その結果がこれだ。
 おふくろに見つからないようにしないとな――ため息を一つついて、答案用紙をバッグにしまった。
 この日の放課後、友彦は心斎橋にある新日空ホテルの喫茶ラウンジに行った。中庭をガラス越しに見られる、明るくて広い店だ。
 彼が行くと、いつもの隅の席で、花岡夕子が文庫本を読んでいた。白い帽子を深くかぶり、縁の丸いサングラスをかけている。
「どうしたの、顔を隠して」彼女の向かいに座りながら友彦は訊いた。
 彼女が答える前に、ウェイトレスが近づいてきた。「いや、俺はいい」と彼は断った。ところが夕子がいった。
「飲み物か何か頼んで。ここで話をしたいから」
 まるで余裕のない彼女の口眨恕⒂蜒澶悉沥绀盲葢趸螭盲俊
「じゃあ、アイスコ药‘」とウェイトレスにいった。
 夕子は、三分の一ほど減っているカンパリソ坤耸证蛏欷肖贰ⅳ搐辘蕊嫟螭馈¥饯欷椁郅盲认ⅳ蛲陇い俊!秆¥悉い膜蓼扦坤盲保俊
「今週いっぱいまで」と友彦は答えた。
「夏休みにアルバイトはするの?」
「バイトって……ふつうのバイトのこと?」
 友彦がいうと、夕子は少しだけ唇をほころばせた。
「そうよ。決まってるでしょ」
「今のところ、するつもりはない。こき使われるわりに、大した金にならへんもん」
「ふうん」
 夕子は白いハンドバッグからマイルドセブンの箱を取り出した。だが抜き取った煙草を指先に挟んだまま、火をつけようとしなかった。苛立っているように友彦には見えた。
 アイスコ药‘が撙肖欷皮郡韦恰⒂蜒澶悉饯欷蛞幌ⅳ前敕证郅娠嫟螭馈:恧窑嗓瘻fいていた。
「ねえ、どうして部屋に行かへんの」声を低くして彼は訊いた。「いつもはすぐに部屋へ行くのに」
 夕子は煙草に火をつけ、たて続けに煙を吐いた。そしてまだ一センチも吸っていないにもかかわらず、ガラスの灰皿の中でもみ消した。
「ちょっとまずいことになっちゃった」
「何?」
 友彦が訊いても、夕子はすぐに答えなかった。そのことが彼を余計に不安にさせた。どうしたんだよ、と身をテ芝毪紊悉藖り出して訊いた。
 夕子は周りを見回してから、彼のほうを真っ直ぐに見た。
「おじさんに気づかれたみたい」
「おじさん?」
「あたしの旦那さん」彼女は肩をすくめた。精一杯、おどけて見せたつもりなのだろう。
「旦那さんにばれてしもたの?」
「完全にばれたわけではないけど、それに近い状態」
「そんな……」友彦は言葉を失った。全身の血が逆流したように身体が熱くなった。
「ごめんね、あたしが不注意だったの。絶対に気づかれたらいけなかったのに」
「どうしてばれたんやろ」
「誰かに見られたみたい」
「見られた?」
「あたしとトモ君がいるところを、知り合いに見られたらしいの。その知り合いが、あの人に教えたみたい。お宅の奥さん、えらい若い男と楽しそうにしゃべっとったで、という具合にね」
 友彦は周囲を見回した。途端に人の目が気になりだした。そのしぐさを見て、夕子は苦笑した。
「でも主人によると、最近のあたしの様子から、何かおかしいとは思てたらしいの。雰囲気が変わったんだって。そういわれたら、そうかもしれない。トモ君と付き合うようになってから、自分でもいろいろと変わったと思うもの。だからこそ気をつけなきゃいけなかったのに、ぼんやりしてたなあ」帽子の上から頭を掻き、首を振った。
「何か訊かれたの?」
「相手は誰だっていわれた。名前をいえって」
「いうたの?」
「いうわけないやない。それほどあほやないわよ」
「それはわかってるけど……」友彦はアイスコ药‘を飲み干し、それでもまだ喉の渇きは癒されなかったので、グラスの水をがぶりと飲んだ。
「とりあえず、その場はとぼけ通した。今のところ、まだあの人も証拠は掴んでないみたい。でも、時間の問睿猡筏欷胜ぁ¥ⅳ稳摔韦长趣浃椤⑺搅⑻絺嗓蚬亭Δ狻
「そんなことになったらヤバいね」
「うん、ヤバい」夕子は頷いた。「それに、ちょっと気になることがあるし」
「気になること?」
「アドレス帳」
「アドレス?」
「あたしのアドレス帳が勝手に見られた形跡があるの。ドレッサ我訾筏穗Lしてあったんだけど……。見るとしたら、あの人しかいない」
「そこに俺の名前、書いてあるの?」
「名前は書いてない。電話番号だけ。でも気づかれたかもしれへん」
「電話番号から、名前とか住所もわかるのかな」
「さあ。でもその気になったら、いくらでも眨伽椁欷毪猡筏欷胜ぁ¥ⅳ稳恕ⅳい恧い恧去偿庭伐绁螭虺证盲皮毪贰
 夕子の言葉からイメ袱丹欷氡伺畏颏蜗瘠稀⒂蜒澶虿坤椁护俊4笕摔文肖楸練荬窃鳏蓼欷毪胜嗓趣いκ聭Bは、これまで空想したことさえなかった。
「それで、どうしたらええの」友彦は訊いた。
「とりあえず、しばらくは会わんようにしたほうがいいと思う」
 夕子の言葉に、彼は力無く頷いた。彼女のいうことが妥当だということは、高校二年の彼にも理解できた。
「じゃ、部屋に行こうか」カンパリソ坤蝻嫟吒嗓工取黄堡蚴证讼ψ婴狭ⅳ辽悉盲俊

 二人の関係は、約一か月続いていた。最初の出会いは、無論あのマンションでの出来事だ。あの時のポニ譬‘ルの女が花岡夕子だった。
 好きになったわけではない。ただ、あの初体験の時に得た快感が忘れられなかっただけだ。友彦はあの日以後、何度か自慰にふけったが、その際脳裏に浮かぶのは、いつもあのポニ譬‘ルの女だった。当然といえた。どんなに過激なことを想像してみても、実際の記憶以上に刺激を得られるはずがない。
 結局友彦はマンションでの出来事があった三日目に、彼女に電話していた。彼女は喜んで、二人だけで会うことを提案した。彼もその誘いに
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